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Sunday, September 22, 2019

中波DXと北極のオーロラ その3

中波DXと北極のオーロラ その3
MW DXing and Aurora Borealis Part 3

 今回は、アラスカ大学のハンサッカー名誉教授とランカスター大学のハーグリーブス博士によって書かれた、"The High-Latitude Ionosphere and its Effects on Radio Propagation”(高緯度電離層と電波伝搬に対するその効果)"という学術書に掲載されている、オーロラ・オーバルと中波電波伝搬の関係を紹介したいと思います。先に紹介したとおり、ハンサッカー教授らは、アラスカのフェアバンクスに受信機を設置し、アメリカ、カナダ国内の中波局を多数受信し、オーロラ・オーバル位置と、各中波局の受信レベルを測定しています。こういった測定を丹念にきちんとしてくださった、ハンサッカー教授とハグリーブス博士に敬意を表したいと思います。

*以下の図2以降は全て同学術書から引用したものに、適宜加筆したものです。
----Citation----
Hunsucker, R., & Hargreaves, J. (2002). High-latitude radio propagation: Part 1 – fundamentals and early results. In The High-Latitude Ionosphere and its Effects on Radio Propagation (Cambridge Atmospheric and Space Science Series, pp. 417-536). Cambridge: Cambridge University Press. doi:10.1017/CBO9780511535758.010

Fig.1 フェアバンクスでハンサッカー教授らが受信した北米中波局
 結論から言ってしまうと、各局からの電波伝搬路に、オーロラ・オーバルがすっぽりかかってしまう、あるいは斜め方向に触れるようなことがあると、フェアバンクスでの受信レベルが相当劣化するというものです。

 まずは、オーロラ・オーバルが全く電波伝搬路にかかっていない状況について紹介します。図2は、"The High-Latitude Ionosphere and its Effects on Radio Propagation”の
Chapter 8 High-latitude radio propagation: part 1 – fundamentals and experimental results の433ページに記載されているFigure 8.14とFigure 8.15を引用し、私が、各中波局と、フェアバンクスまでの伝搬路をGoogle Earthを用いて、出来る限り正確に同図に書き込んだものです。(青色:局名、赤色:伝搬路)図2の左側は、1985年の9月4日の10:00UTC( フェアバンクスは深夜0時)のオーロラ・オーバルの位置と各局からの電波伝搬路の様子です。オーロラ・オーバルは伝搬路には全くかかっていません。

 図2の左側は、同日の各局の受信レベルになります。横軸の時刻はUTCであり、受信レベルはおよそ5:00UTC頃から上昇し、15:00UTC頃に下がっていますが、これはフェアバンクスのローカル時刻にすると19:00から05:00となり、夜間伝搬を表しています。この二つの図を比較すると、オーロラ・オーバルが電波伝搬路にかかっていない場合は、良好な受信レベルが得られていることがわかります。
(※図2の右側の受信レベルのグラフについては、ハンサッカー教授らは、本文中では、Figure 8.14 shows typical variations in signal for quiet magnetic conditions.としか記述していませんが、Figure.8.16の図が、DAY 251 1985となっており、同図が1985年の9月8日となっていることから、DAY 247 1985と記されているFigure.8.14は1985年の9月4日のものと考えられます。またFigure 8.15は、本文中では1985年の9月4日のものとあるのに対し、同図のキャプションには2月4日と書かれています。これはキャプションの方が誤植と考えられます。)

Fig.2 オーロラ・オーバルと各中波局の伝搬路の関係並びに受信レベルその1
(R. D. Hunsucker, J. K. Hargreaves "The High-Latitude Ionosphere and its Effects on Radio Propagation”のChapter 8 High-latitude radio propagation: part 1 – fundamentals and experimental resultsから図8.14、図8.15を引用し、各中波局と伝搬路は私が追記したもの)

 続いて、オーロラ・オーバルが各中波局の電波伝搬路にかかったケースについて紹介します。図3はでは、オーロラ・オーバルに斜め方向から入り込んでいる(オーロラ・オーバルのかかっている距離が長い)KGA、KTWO、CFRNの受信レベルが大きく劣化しています。またその伝搬路がすっかりオーロラオーバルに覆われてしまっているKOTZも受信レベルが大きく劣化しています。それに対して、ほぼ垂直方向から入り込んでいる(オーロラ・オーバルのかかっている距離が短い)KFAX、KFQD、KSKOは殆ど劣化していません。

Fig.3 オーロラ・オーバルと各中波局の伝搬路の関係並びに受信レベルその2
(R. D. Hunsucker, J. K. Hargreaves "The High-Latitude Ionosphere and its Effects on Radio Propagation”のChapter 8 High-latitude radio propagation: part 1 – fundamentals and experimental resultsから図8.16、図8.17を引用し、各中波局と伝搬路は私が追記したもの)

 さて、続いてカナダのCFRNのフェアバンクスでの受信レベルについて、(a)伝搬路がオーロラ・オーバルに覆われていない場合、(b)伝搬路がすっぽりオーロラ・オーバルに覆われてしまった場合、(c)伝搬路がオーロラ・オーバルに接触した場合の3つのケースについて受信レベルの状態がまとめられていましたので、ここに引用してみたいと思います。

 図4は電波伝搬路がオーロラオーバルにかかっていない場合です。同図の下側に、受信レベルのグラフが小さく描かれていますが、受信レベルがほぼ安定していることがわかります。

Fig.4 CFRNのフェアバンクスに対する電波伝搬路と
オーロラ・オーロラオーバルの位置関係と受信レベルその1
(R. D. Hunsucker, J. K. Hargreaves "The High-Latitude Ionosphere and its Effects on Radio Propagation”のChapter 8 High-latitude radio propagation: part 1 – fundamentals and experimental resultsから図8.19(a)を引用し、名前と伝搬路(赤)は私が追記したもの)

図5は、電波伝搬路がオーロラ・オーバルにすっぽり覆われた場合です。同図の下に描かれている受信レベルを見てみると、全く伝搬していないことがわかります

Fig.5 CFRNのフェアバンクスに対する電波伝搬路と
オーロラ・オーロラオーバルの位置関係と受信レベルその2
(R. D. Hunsucker, J. K. Hargreaves "The High-Latitude Ionosphere and its Effects on Radio Propagation”のChapter 8 High-latitude radio propagation: part 1 – fundamentals and experimental resultsから図8.19(b)を引用し、名前と伝搬路(赤)は私が追記したもの)

 図6は、電波伝搬路がオーロラ・オーバルかかり始めた時のものです。同図の下に描かれている受信レベルを見てみると、やはり受信レベルが変動し、大幅に劣化していることがわかります。

Fig.6 CFRNのフェアバンクスに対する電波伝搬路と
オーロラ・オーロラオーバルの位置関係と受信レベルその3
(R. D. Hunsucker, J. K. Hargreaves "The High-Latitude Ionosphere and its Effects on Radio Propagation”のChapter 8 High-latitude radio propagation: part 1 – fundamentals and experimental resultsから図8.19(c)を引用し、名前と伝搬路(赤)は私が追記したもの)

 このように、オーロラ・オーバルが中波伝搬路に接触、あるいは伝搬路を覆ってしまうと、伝搬に大きな影響を与えることがわかりました。これらの知見は、中波DXの北極伝搬を検討する上で大きな知見となることは間違いないと思います。

 今回はここまでとします、次回は、昨年11月に東北海道で北米東海岸局WBZ(ボストン)の受信に成功した時の伝搬状況、そして伝搬路上に存在しているアラスカ北端、バローのKBRWの伝搬状況とオーロラ・オーバルの関係を当時の受信音と共に振り返ってみたいと思います。(その4に続く)

Monday, September 16, 2019

中波DXと北極のオーロラその2

中波DXと北極のオーロラ その2
MW DXing and Aurora Borealis Part 2

 今回は、中波DX、特にTPDXで北極伝搬を狙う場合にオーロラについて知っておくべきことをまとめてみようと思います。オーロラは、北極や南極エリアの夜空に展開される不思議な緑や赤等の美しい発光現象のことですが、いくつかの文献を読んでみたところ、その発生原因は、詳細な理屈を抜きにして、ものすごくざっくり言うならば、 

  1. 地球は磁石であり、磁力線は南極から北極に向かって伸びているが、太陽から吹いている磁気を帯びた高温の電離したガス(プラズマ)、いわゆる太陽風によってこの地球の磁力線は、太陽に面するエリアでは押しつぶされ、太陽から離れる方向には吹き流されるような状況になっている(図1参照赤い線が地球の磁力線
  2. 太陽面から、大量のプラズマが一気に高速に噴き出ることがある。これをコロナ・マス・イジェクション(CME)と呼ぶが、CMEが地球に到達し、そのプラズマの磁力線の方向が南向きだった場合、地球の磁気の向き(北向き)と打ち消し合って、太陽風で運ばれてきた大量のプラズマが地球の磁力線に沿って、南極側、北極側に流入する。また、地球から離れる方向に伸びている磁力線が徐々に近づき、再結合をする場合がある。これを磁気リコネクションというが、この磁気リコネクションが発生すると、プラズマが南極、北極の夜の部分に磁力線に沿って大量に流れ込む。
  3. 磁力線に沿って流れ込んだプラズマが、大気中の窒素分子や酸素原子に衝突すると、発光現象が発生する。これがオーロラ。

Structure of the magnetosphere-en
Fig.1 地球磁気圏と太陽風の関係
 
さて、細かい話は抜きにして、次のNASA提供のYoutubeの動画を見てください。太陽から飛び出したプラズマが地球に到達した時に、北極、南極にプラズマが流入し、発光しているCGが描かれています。全編英語による解説ですが、CGを見ることで、大方の理解はそう難しくはないはずです。(こういうところ、流石NASAだと思いますね。)太陽表面から飛び出したプラズマは18時間で地球に到達するそうです。
  
さて、オーロラは、南極、北極エリアにどのように分布しているのでしょうか?オーロラが発生するエリアは、卵型のように若干ゆがんだ楕円形のような形になっています。これをオーロラ・オーバルと呼びます。図2の動画は、南極エリアに生じているオーロラの分布(オーロラ・オーバル)です。北極エリアにも同様にオーロラ・オーバルは存在します。
Fig.3 南極のオーロラ・オーバル
(出典:Wikipedia 原典: NASA Earth Observatory)
 このオーロラ・オーバルは、NOAAよる30分毎の予測データをインターネット上で確認することができます。ここをクリック 図3に予測データの例を示します。
Fig.3 NOAAによる予測結果の一例(北極エリア)
 
   さて、このオーロラの発生している場所(オーロラ・オーバル)に中波伝搬路(地表波でない)があると電波吸収が著しく発生し、中波電波伝搬に悪い影響を与えることが、中波DXとオーロラその1で紹介した、アラスカ大学のハンサッカー名誉教授とランカスター大学のハーグリーブス博士の調査によって明らかにされています。この調査結果については、次回、引用しながら紹介したいと思います。(その3に続く)
 

Tuesday, September 10, 2019

中波DXと北極のオーロラ その1

中波DXと北極のオーロラ その1  
MW DXing and Aurora Borealis Part 1

 まだ残暑が厳しいですが、北欧の中波DXerの方々のFacebookでの便りを見ていると、中波DXのコンディションが上がってきた様子です。季節は秋に向かいつつあるのですね。さて、私は、ここ数年TDXCメンバー他の仲間と、様々な場所にDXペディションに出かけては、北米中波局の受信に取り組んでいます。特に、太陽活動がボトム期にある今シーズンは、昨年に引き続き、北米東海岸中波局のキャッチに向けて知恵を絞っていきたいと考えているところです。

 北米東海岸中波局の受信は、かなり困難であることがわかっており、かつての月刊短波誌上でも、受信レポートは殆ど掲載されていなかったと思います。昨年、東北海道DXペディションで受信に成功したマサチューセッツ州ボストンのWBZ、メリーランド州のWPTX等は、長時間安定に入感していたわけでなく、フェージングで信号レベルが上がってきたところのごく短時間の受信でした。運が良かったとしか言いようがないです。

 さて、どういう条件の時に、北米東海岸の中波局の電波は日本まで伝搬してくるのでしょうか? 図1にWBZ、WPTXの送信地点と特にTPDXのための中波DXペディションで良く利用される日本の三陸海岸を受信点として大圏コースを描いてみると、そのどちらも北極に近いところを伝搬してきていることがわかります。WBZの伝搬路上には、アラスカの北端の街バロー(Barrow)の中波局KBRWがあることにも注目です。伝搬距離はおよそ10500-10600kmです。

Fig.1 WBZ, WPTXから三陸に向かう伝搬路
 さて、この北極に近いルートの中波の電波伝搬を困難にしている原因は、何かというと、オーロラであることがわかっています。オーロラ吸収(Aurora Zone Abosorption )や極冠吸収(Polar Cap Absorption)が発生し、電波が弱くなってしまうことがわかっています。ただ、どんなふうに弱くなるのか、中波帯の北極伝搬を研究した例はないのか等知りたいと思っていた私は、ずいぶんとこれまでインターネット上でGoogle 検索を駆使しながら、文献調査をしてきました。

そしてついに有用な知見が得られる文献を見つけることができました。サンキューインターネット時代! アラスカ大学のハンサッカー名誉教授とランカスター大学のハーグリーブス博士によって書かれた、"The High-Latitude Ionosphere and its Effects on Radio Propagation(高緯度電離層と電波伝搬に対するその効果)"という学術書です 。この本には、高緯度地域の電離層が電波伝搬にどのような影響を及ぼすかについて、その研究成果がまとめられています。なんと中波の北極伝搬についても言及されています。

Fig.2 The High -Latitude Ionosphere and its Effects on Radio Propagation の表紙
(Cambridge Atmospheric and Space Science Series)

 ここで述べられている中波の北極伝搬についての詳細は、後日紹介していきますが、なんと、ハンサッカー教授達は、アラスカフェアバンクスに受信機を設置して、私達もDXペディションで良く受信している常連局であるアラスカのKFQD,750kHzからワイオミングのKTWO,1030kHz, サンフランシスコのKFAX,1100kHz等を受信し、その受信レベルとオーロラの発生状況を事細かく検証しているのです。この内容については、後日紹介させていただきます。

Fig.3 ハンサッカー教授らがフェアバンクスでこれらの中波局を受信し、
その受信レベルとオーロラの発生状況を比較した
長くなりました。今回はこの辺で終わりにします。次回はオーロラについて中波DXをやる上で知っておいた方が良い基礎的なことをまとめます。(その2に続く)

 

Sunday, September 8, 2019

IRCA 年大会 で昨年の東北海道DXペディションが紹介されました

 9月6日からアメリカ・シアトルで開催されているIRCA(International Radio Club of America)の年大会に、TDXCのMさんとNさんが参加。写真付き速報がメールで入りました。(MさんとNさんは、本大会で日本のDXingについて紹介。)カナダの中波DXerの Nick Hall-Patch氏(ニックさん)が、Over the Pole DXing, What a Difference a Year Makes(極越えDXing, 年による違い)を発表されたのですが、その中で、昨年11月に私が先輩DXerの皆さんに誘われて参加した東北海道DXペディションで、全員で達成した北米東海岸中波局受信の様子が紹介されました。WBZ(マサチューセッツ州ボストン、1030kHz, 50kHz )他が日本で受信されたことについて、会場から「おぉー」と声が出たとのことです。やはり極越え中波伝搬は、北米の中波DXerの方々にとっても難関で、興味深いことなのでしょう。こうやって共通の趣味で国境越えてワイワイやれるのは実に楽しいことです。私もいつかはIRCAの年大会に参加してみたいですね。ニックさんが、スライドに書いた英文がいいですね。

Here's why these DXers look so happy.

Fig.1 プロジェクターで投射されているのが我々の写真