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Sunday, October 6, 2019

中波DXと北極のオーロラ その4

中波DXと北極のオーロラ その4
MW DXing and Aurora Borealis Part 4

 これまで、オーロラが北極エリアに出現すると、中波電波は影響を受け、伝搬に障害がでることを、いくつかの文献等を通じて、紹介してきました。では、オーロラの程度(強さ、出現)はどのように知ることができるのでしょうか?

 オーロラの出現予測は、アメリカのNOAA(アメリカ海洋大気庁)の30分毎の予測データを利用することができます。さらにそのオーロラによる、北極地域の地磁気の乱れの尺度としてAEインデックスを利用することができます。更新間隔は1分のようです。このAEインデックス、リアルタイムデータ(速報値)が京都大学大学院理学研究科附属地磁気世界資料解析センターのホームページから利用することができます。AEインデックスのグラフの変化が激しい程、北極地域の地磁気の乱れが激しいことになります。

 AEインデックスは、北極地域にある12の観測所で測定された地磁気データをを元に作成されています。このグラフの中にAE以外に、AOやAU、AO等もあり、これにはそれぞれ意味がありますが難しい内容になります。中波DXをやる上では、とりあえずは、このグラフの暴れ具合を気にするだけで充分だと私は考えています。(AU,AL,AOの意味については、ここに参考文献があります。関係性は、AE=AU-AL, AO=(AU+AL)/2です。)

 では、オーロラが盛大に発生した時のNOAAのオーロラ予測データとその日のAEインデックスのグラフを見てみましょう。図1は、2019年8月25日 10時25分(UTC)の時のオーロラ出現予測と同日のAEインデックスのグラフです。オーロラ予測データには盛大に赤い領域が出ており、オーロラが強く出ることが予測されています。実際にAEインデックスも派手に暴れており、オーロラ活動がとても活発だったことがわかります。こういう状況下では、北極伝搬は期待できないと考えられます。

Fig.1 Aurora Forecast for 2019-08-05 10:25UTC and AE index on the same day.

  イギリスの老舗中波DXerサークル"Medium Wave Circle"が出した昨年の季刊誌12月号に、イギリスのミドルズボロウや、イタリアで北米アラスカのKBRW(Barrow,680kHz)受信されたことがニュースとして掲載されていました。記事によるとこれまでは、北スコットランドでしかKBRWは受信されていなかった様子で大変珍しかったようです。KBRWからの電波伝搬は、イギリスやイタリアからすると、まさに北極伝搬となります。図2はKBRW(Barrow)からイタリアまでの伝搬路、および昨年の12月24日05:00UTCにイタリアの中波DXer Giampaolo GalassiさんがKBRWの受信に成功した時のAEインデックスを示したものです。残念ながらこの時間のオーロラ出現予測図のキャプチャーができていませんが、AEインデックスのグラフから、オーロラ活動は停滞していたと考えられます

Fig.2 Path between KBRW and Italy and AE index on Dec.24,2018

 Giampaoloさんの許可を得ておりますので、彼が受信に成功したKBRWの受信音をここで紹介します。彼は受信アンテナにK9AYを使ったそうです。18秒後、時報音の後に若い女性の声で"This is KBRW Silakkuagvic Communications Inc,..." (KBRWシロコービック コミュニケーションズインク...)と出ています。(とても弱いのでヘッドフォンで聴くことを推奨します。)正真正銘、北極伝搬の音です!たまたまですが、サイドからの被りが不思議な響きを持っていて雰囲気が抜群ですね。
  イタリアで受信されたKBRWの音


※再生できない時は、お手数ですが、しばらく経ってから再生してみてください。(再生できなくなる原因は、アクセス数が短時間に一定以上あると、Googleが再生できなくしてしまうという仕様にあります。)

では、我々が昨年の11月25日に東北海道ペディションで北米東海岸局、WBZ(MA,1030kHz)の受信に成功した時のオーロラ出現予測と、AEインデックスのグラフを紹介します。我々が混信がありながらもWBZをかなりクリアにキャッチした08:00UTC(日本時間17:00)には、KBRWが爆裂で大変良好かつクリアに入感していました。図3のAEインデックスのグラフを見てください、オーロラ活動は、同時刻付近ではとても停滞しており、さらにオーロラ出現予測図からは、KBRWのあるBarrow付近ではオーロラの出現確率がとても低かったことがわかります。

Fig.3 Aurora Forecast at 08:10 UTC on Nov.25,2018 and AE index on the same day

 それでは、この時のWBZの受信音と、KBRWの受信音を受信に使用したペルセウスのスペクトル動画として紹介します。受信に使用したアンテナはシエスタさんが製作された全長40mのTDDF(D-KAZ)アンテナです。


WBZ_1030kHzの受信音(08:00UTC on Nov.25)

男性の声で、" WBZ News radio 1030, WBZ Boston WXKS FM - HD2, Medford and Iheart radio station, This is WBZ, News radio 1030" と出ています。

続いて、KBRWの受信音です。通常この周波数(680kHz)はカリフォルニアのKNBRが居座っていることが多いのですが、この日はKBRWが優勢で、KNBRは完全といっていい程KBRWにつぶされていました。こんなに早い時間帯でKBRWが受信されることはこれまであまりなかったように思います。(大抵これまでは深夜の受信報告が多かったように思います。)


若い女性の声で"KBRW Silakkuagvic Communications Inc in Barrow Alaska, The voice of the north pole and thank you for listening.."と出ています。大変良好に入感しており、これが本当にアラスカのもっとも北部の放送局の電波なのか?と思ってしまうほどです。このIDの後、音楽が流れ、男性の声で” KBRW, Barrow”とIDが出ますが、その裏で、聞こえる英語はKNBR(CA)と出ているようです。KBRWがKNBRを打ち負かして、完全に逆転しているわけです。

 同日のWBZとKBRWの電波伝搬は、AEインデックスのグラフおよび、オーロラ発生予測図からわかるとおり、オーロラの影響をあまり受けずに到来したと考えられます。これらの2つのデータは、ペディション当日の北極伝搬の可能性を予測するのに使えそうですね。

 同時刻の受信点とWBZ,KBRW間の夜間エリアの状況を図3に示しておきます。受信地点は、ちょうどグレーゾーンを抜けた日没後となっています。

Fig.4 DX Atlas for 08:00UTC, Nov.25 2018 and propagation path

 実はこのWBZは、ファイルを何度も聞きなおしてみると、07:00UTC、06:00UTCでも混信が酷いもののIDが取れていました。ヘッドフォンで聴いていただきたいのですが、WBZ, Boston..というIDが出ていることがわかるかと思います。

まずは、06:00UTC (日本時間15:00)のWBZ受信音です。午後3時に聞こえるなんてちょっと驚きでもあります。


混信が激しいですが、開始5秒後に男性の声で、" WBZ Boston ....”と出ています!
この時の夜間エリアの状況は図5のとおり。まだ受信点は明るいですが、伝搬路方向の夜間エリア(コントロールポイント)で反射した電波が到達しています。コントロールポイントについては、過去のブログ記事「LRA Radio Nacional 870 kHzを初めて受信した時の思い出」を参照してください。
Fig.5 DX Atlas for 06:00UTC, Nov.25 2018 and propagation path

 続いて、07:00UTC(現地時間16:00)に受信したWBZの受信音です。混信は激しいのでヘッドフォンで聴くことを推奨します。この時は、別の東海岸局であるメリーランド州のWPTX(1690kHz)が良好に受信できました。


開始3秒で、男性の声で”Merry Christmas”と出て、続いて"WBZ Boston" と出ています。


 開始17秒後、ビリージョエルのHonestyの曲が終わると、"You are listening to southern Maryland favourite adult standards on WPTX 16-90 AM, Lexington Park Maryland.."と出ています。この時間のWPTXは1kW送信です。信じられないくらいクリアに受信できています。

この時の夜間エリアの状況は図6のとおり。受信点はグレーラインに入っています。

Fig.6 DX Atlas for 07:00UTC, Nov.25 2018 and propagation path

 実は、現地時間昼過ぎの05:00UTC(日本時間14:00)にもWPTXが聞こえていました。当時我々は、周りがとても明るい昼過ぎなのに、中波バンド全体で、10kHzセパレーションで聞こえてくる多数の北米局の存在に、なにやらいつもと違う雰囲気を感じていました。その時の夜間エリアの状況は図7のとおりです。この伝搬も一応、電離層のコントロールポイントにおける反射で伝搬してきたものと解釈することができます。コントロールポイントは、最後の反射点であり、E層伝搬とした場合、受信点から伝搬路方向約750㎞地点をいいます。図7の夜間エリアのエッジ(受信点方向の西端)は、ほぼこの地点に合致しています。

Fig.7 DX Atlas for 05:00UTC, Nov.25 2018 and propagation path

 この時の受信音はこちらです。信号は大変弱いですが、明瞭に聞こえています。受信点のバックグラウンド雑音レベルが低く、かつ海利得(Sea gain)があったからこその受信だと思っています。どうしてもノイズレベルが高くなってしまう関東近郊ではちょっとこの受信はありえないでしょう。


女性の声で、"You are listening to southern Maryland favourite adult standards on WPTX 16-90 AM, Lexington Park Maryland.."と出ています。

 私は、「AEインデックスはDXペディション当日の北極伝搬の可能性を評価する指針としてもしかすると3時間毎に更新されるKインデックスより便利に使えるのではないか?」と考えています。というのも、他の中波DXerの方が過去に受信された北米東海岸局や、カナダのケベック州の局の受信日時におけるAEインデックスグラフを調べてみると、やはり、グラフが全く暴れていないのです。

 カナダの大変アクティブな中波DXerである、Nick Hall-Patch(Nickさん)とメールでやり取りする中で、AEインデックスについて紹介したところ、NickさんのこれまでのDXペディションの中で、北極伝搬による受信ができた日時はやはり、AEインデックスが静かだったとコメントをもらうことができました。

 これまでの私が参加した過去のDXペディションの記録とAEインデックスの照合を取り始めていますが、昨年の11月のDXペディション以外は、殆どがAEインデックスの変動が多かった日であり、北米東海岸局の受信はできていません。これについては別途またご紹介したいと思います。ご興味がある方のご意見、ご感想をお待ちしています。(中波DXと北極のオーロラ 終わり)


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