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Monday, August 24, 2020

ApexRadioの 303WAというアンテナについて(その1)

 ApexRadioから販売されている、303WA-2という全長1.8mのホイップアンテナがあります。これは、旧版の303WAの後継機種ですが、寸法はそのままで、垂直エレメントを分解した時の長さを輸送に適した長さに再調整されたものと聞いています。303WAの名前の由来は、30kHzから30MHzをカバーするWhip Antenna ということで、303WAとなったとApexRadioの大嶋社長から戸塚DXer'sサークルのオンラインミーティングにて伺っています。

303WA-2(ApexRadio HPより)

 このアンテナは、無電源つまり、完全なパッシブアンテナであり、混変調などに強く、静かなアンテナであるという良い評判がいたるところで聞かれます。しかしその一方で、ゲインが不足気味だという意見も結構聞かれます。私は303WAを10年ほど使っていますが、ベランダなどにポン起き(何も考えずに設置)して、通信機型受信機に接続して気軽にワッチする目的には使いやすいアンテナだなというのが感想です。設置場所をほとんどとらないのもいいです。ただ、設置条件によっては、ノイズを拾いやすいという経験もしています。その時は、ベランダの手すりに銅箔テープを貼り、銅箔テープに太めのACケーブル(単線)をはんだ付けした後、その先をこのアンテナの外導体部分に接続することで、実際にノイズをかなり抑え込むことに成功した経験もあります。

 さてこのアンテナ、ApexRadioのホームページ上では、”軽量でコンパクトなサイズながら、独自のマッチング回路(実用新案出願中)を採用したことで、長波~短波帯の広帯域において優れた受信性能を発揮します”と書かれており、アンテナインピーダンスも50Ωははないようだという複数の報告がネット上にあります。私が調べた限りでは、下記ホームページ(ブログ)上で報告がされていました。リンクを下記に記します。

2006.3 ApexRadio 303WAモニターレポート(NDXC 堀場氏のレポート

2009.12.9 どら日記「303WA-2」

2017.7.14 R.yawattaのラジオと工作「303WA-2の疑問」

2018.2.18 kerokeronyororoのblog「M・C・L式中波帯受信用簡単チューナー(その3)」

2018.6.3 『ど』のページ「303WA-2の動作原理(推測)」

 いずれの報告でも、このアンテナに同軸ケーブルを繋げて、同軸ケーブル端からのインピーダンスをアンテナアナライザーで測定されているようです。(『ど』のページでは、インピーダンスアナライザに直結した測定例もあります)インピーダンスが波打つように変化する様子が報告されていますが、これはアンテナインピーダンスの正しい測定の仕方ではないと私は思います。特定のインピーダンスが同時ケーブルに接続されていた場合、その同軸ケーブルの長さが信号の波長λ/2の整数倍になった場合には、同軸ケーブルに接続された先のアンテナのインピーダンスの正しい値が測定可能ですが、それ以外の長さでは、同軸ケーブルの影響を受け、インピーダンスはかなり変わったものとなり、インピーダンスは繰り返し変化してしまいます。その理屈は、ハム三昧というHPで丁寧に説明されています。アンテナのインピーダンス測定は、アンテナアナライザーとアンテナ間はできるだけ短い距離で接続して測定するのが正しいはずです。

 私は手元にアンテナアナライザー(ブリッジ型)MFJ-259Cがあるので、このアナライザーに303WAを直結し、同軸ケーブルを挟まずにアンテナインピーダンスを測定してみました。幸い、303WAはアンテナ端子がM型コネクタのプラグになっており、MFJ-259CのM型コネクタのジャックに直接接続することができました。

MFJ-259Cに303WAを直結して測定

 それでは、測定結果を以下に記します。私は、中波DXがメインフィールドなので、測定周波数は3MHzまでとしました。700kHz以下の領域では、インピーダンスZが650Ωを越えてしまい、MFJ-259Cの測定レンジを超えるので、測定していません。また、さらに周波数を上げていっても、30MHz程度までの短波帯の範囲では、たんだんと続けてRパート、Xパート(リアクタンス)は小さくなっていくようです。Xパートは、周波数が大きくなるにつれ小さくなっていますので、容量性と考えられます。これは波長よりかなり短いホイップアンテナは一般に容量性を示すことから、そう言えると思います。したがってjパートで考えるなら、この値は、マイナスの値になりますが、グラフ上は絶対値|Z|で表示しています。(MFJ-259Cはjパートのプラスマイナスは表示しない)ちなみに、MFJ259Cに直結せずに、M型のP-Pプラグでアンテナとアンテナアナライザーを中継接続した場合は、たかだか数センチ距離が伸びただけですが、Rパートの値が周波数1000kHz以下で40Ω程度小さくなりました。

 この測定結果より、特に中波帯に注目しますと、Rパートは特に低い周波数帯で数百Ωもあり、Xパートもはさらに大きな値になっていますので、入力インピーダンス50Ωの通信型受信機にこのアンテナを接続すると、2MHz程度まではハイインピーダンス出し、ローインピーダンス受けの状態になっていることがわかります。つまり、せっかくホイップアンテナに誘起した信号電圧の大半は、アンテナ側のインピーダンスにかかってしまい(分圧されてしまい)、負荷となる通信機型受信機の50Ωにはあまり信号電圧がかからないわけです。

 一方で、周波数が高いほう、短波帯になると、アンテナインピーダンスはどんどん下がっていき、ローインピーダンス出し、ハイインピーダンス受けの格好になっていきます。

グラフ1 303WAのアンテナインピーダンス測定結果

 さて1.8m程度の金属棒はインピーダンス・マッチングと取らなければ、中波帯域においては、リアクタンス成分が大変大きくなることが予想されます。計算していないので正確な値はわかりませんが、数kΩレベル?にもなるかもしれません。あまりにも素のインピーダンスは高すぎる。この303WAは、独自のマッチング回路を採用したことで、インピーダンスを下げた結果このようになったと思われます。さてこのマッチング回路にはどんな狙いがあるのか?
 
 グラフ2は、このアンテナに入力インピーダンス50Ωの通信型受信機を接続した場合に、アンテナに誘起した電圧信号がどのくらい減衰して受信機に加わるのかを計算した結果になります。

グラフ2 入力インピーダンズ50Ωの受信機に接続した場合の信号減衰量

 つまり、中波帯域では周波数によって変わるものの、およそ13~25dB相当のアッテネーターが入っていることと同じになります。こういったことから、私はこのアンテナの設計者は、中波の強電界における過入力によって受信機で引き起こされる混変調等の弊害を避けたいがために、わざとこのような設計をされたのではないか?と推測しています。みなさんはどのように思われますか?。ただし、インピーダンス・マッチングは全く成立していないので、SWRは全く悪いままですが、送信に使うわけでもないので気にする必要はあまりないと思われます。

 このアンテナに長い同軸ケーブルを接続した場合に、アンテナとしてどう振る舞うかについては、別途検討したいと思います。接続する同軸の長さによって同軸込のインピーダンスは繰り返し変化するようです。

 次回は303WAに採用されている独自のマッチング回路について考察します。(続く)

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